BGRI: 小麦さび病と戦う科学者たちがソーシャル環境に集う
小麦さび病は小麦に発生する重大な真菌病で、Puccinia triticina というさび病菌によって引き起こされます。それはすべての小麦さび病の中でも最もまん延していて、小麦が栽培されるほとんどすべての地域で発生します。この病害は50年以上の間ほとんど死滅したと考えられていましたが、世界は今Ug99という非常に伝染力が強い、黒さび病の変異の新しい大流行に直面しています。この病菌によって世界の小麦生産の3分の1以上が壊滅につながる可能性があります。小麦は世界で最も広く栽培されている穀物で、かつ人類のカロリー摂取の5分の1を占めているので、そのような損失は大打撃になります。*1
*1-- ”Rust in the basket” The Economist, July 3, 2010
Borlaug Global Rust Initiative (BGRI) はコーネル大学、ならびにミネソタ大学、カリフォルニア大学デービス校、シドニー大学、USDA(United States Department of Agriculture:アメリカ合衆国農務省)、ケニア農学研究所など、一流の研究機関が主導する共同の取り組みで、The Bill & Melinda Gates Foundatio(ビル&メリンダ ゲーツ財団)のサポートを受けて、小麦研究では初めて国際的コラボレーションにより全世界的に小麦さび病に対する脆弱さを減じようとして設立されました。
課題
現在は、わずか一握りの研究機関だけしか、小麦さび病の問題に関するノウハウを持っていません。BGRI は、これらの専門家だけでなく、50カ国以上にちりぢりになっている小麦の科学者のコミュニティ、大学、および農業研究機関が、小麦さび病の研究とその伝染防止のベスト・プラクティスの詳細について、協働し、より広いコミュニティを教育し、そして普及させるために、彼らを取りまとめる方法を必要としていました。そのうえ、科学界では、通常、知識は論文審査のある科学雑誌の中の研究発表によって広まるが、このプロセスは知識の交換を何ヶ月も、何年も遅らせることになります。しかし、BGRIにそのような時間軸で運営する余裕はありません。Ug99は進行中というだけでなく、変異しつつあり、対抗として使われている耐性遺伝子をも打ち負かすようになっています。プロジェクト・リーダーたちは、簡単に構築でき、簡単に更新でき、世界のどこからでもアクセスできるコラボレーション・プラットフォームを必要としていたのです。
ソリューション
BGRIは、研究を発表し、共有、コラボレーションできるコミュニティ ポータルを作ることにしました。さらに、そのサイトでは、小麦さび病をまだ直接見たことのない科学者たちのための資源やトレーニングを提供することも考えています。コーネル大学が主導するプロジェクトの主催者たちは、Traction Software社のTraction TeamPage を選びました。TeamPageは、数々の受賞実績を持すソフトウェアで、Wiki、ブログ、タグ付け、活動の流れ、ディスカッション、そしてソーシャル ネットワーキングを、安全で拡張性のあるEnterprise 2.0 ソーシャル ソフトウェア プラットフォームとして統合しています。
これに加えて、このサイトに不可欠な機能、検索と情報へのアクセスを強化するために、Attivio社のActive Intelligence Engine (AIE)を搭載するTeamPageのAttivio検索モジュールが選ばれました。AIE は構造化、非構造化、半構造化など、あらゆる形式のコンテンツを集約するユニファイド インフォメーション アクセス プラットフォームです。Attivio 検索モジュールとそのベースとなる AIE によって、研究者たちやその他の小麦さび病コミュニティに関わる人々は、先進的なエンティティ抽出だけでなく、コンテンツのタグなどの明示的なファセット、そしてコンテンツにたびたび出現するキーワードやフレーズから生成される黙示的ファセットを使って容易にドリルダウンし、関連情報に素早くアクセスできます。
BGRI は、小麦の科学者、農業研究機関、政策立案者などのための公開された Web ベースの知識情報源として Global Rust (globalrust.org) をわずか2~3週間という、短期間で立ち上げました。新しく構築されたコミュニティは、情報共有のための公開されたドメインと、研究者たちがより焦点を絞ってコラボレーションするために集うことができるプライベートなコミュニティで構成されています。
今日では、サイトのコーディネーターとユーザーの両方が、このサイトが小麦さび病に関するニュースと重要な研究情報の優れた情報源であると言っています。Traction TeamPage のアクセス コントロール機能によって、リーダーたちは適切に精査された情報をより簡単に配信でき、科学者たちは将来の研究費を獲得するため助成金申請について、プライベートに、そして安全にコラボレーションできます。また、TeamPage のバージョン管理機能によって、各チームは共有文書の変更履歴を把握することもできます。TeamPage は、彼らが必要とするバーチャルなイントラネット、すなわち、プロジェクト マネジメントとコラボレーション ツール、プライベート コミュニティ、そして公開されたウィキィ情報源、を効果的に提供しているのです。
かつては研究者、研究機関、NGO、その他の小麦研究賛同者といったすべてのコミュニティを見ることはできませんでした。今ではすべての関係者が TeamPage のAdvocacy Space にある目次を使ってすばやくナビゲート情報にアクセスできます。 Global Rust チームは、目次機能と記事同士に親子関係を付ける機能を使って、さび病に焦点をおいた大陸や国別のメンバー、プロジェクト、研究機関のリストを構築しました。コミュニティを公開することで、新しいコミュニケーションのラインが開け、国と大陸の境界を越えてベスト プラクティスのより良い共有が可能になり、そしてコミュニティは限られたノウハウをより良く活用できるようになります。
Attivio 社の AIE を使うことで、Global Rust サイトのビジターは数千ページの文書、プレゼンテーション、書籍に目を通すことができるようになります。たとえば20年以上前に出版され、今は絶版になっている小麦さび病のバイブルといわれる『小麦さび病アトラス』は、200ページ以上の小麦さび病の重要な情報を提供していますが、これまではこの書籍は入手困難で、またできたとしても高価でした。Global Rust コミュニティのリーダーたちは、出版社と交渉をして、丸々1冊を PDF で TeamPage のサイトに載せることができました。検索結果の中の関連性ランクによって、検索キーワードが互い近くに、そして適切な順序で出現する書籍の抜粋が表示されます。これによって多忙な研究者たちは、何100ページもめくったりすることなく、重要な情報源にたどり着けます。
最初にサイトが立ち上がって以来、コンテンツは何倍にも増えています。コンテンツが増えるにつれて、サイト ナビゲーションと情報検索の機能を常に改善する強い必要性がでてきました。Global Rust チームは、主要なコンテンツを動的に表示し、コンテンツを容易に組み替えるために、TeamPage の “セクション” を活用しています。また、コンテンツの増大に伴って、Attivio AIE の検索エンジンは、キーワード ファセットやその他の先進的機能によって、検索結果とユーザーの効率を改善しています。
成果
今ではこのサイトは知識共有だけでなく、Ug99 と戦うさび病コミュニティを育てるために使われています。TeamPage と Attivio 社の Active Intelligence Engine を組み合わせることで、Global Rust サイトはユーザーにとって使いやすく、毎日300人以上の研究者に重要なコンテンツを届けることができるようになりました。データとコンテンツの集約に加えて、いついかなるときでも25人以上の人々がさび病の脅威と戦うためにサイトで協働作業をしています。
研究とデータを迅速に入手できなければならないので、コミュニティは Ug99 耐性を持つ小麦の変種の入手可能性に関するニュースを含む情報を、よりタイムリーに公開できるようになりました。。さらに、コラボレーションの結果、より多くの研究プロジェクトや小麦さび病菌に対する持続的な防御のためのさらなる研究と発表が実現し、これらの成果がさらなる財政支援へとつながりました。
BGRI は、globalrust.org コミュニティを通じて達成した初期の成功のおかげで、その参加者は増加し続けおり、科学者と政策立案者からの小麦さび病に関する重要な詳細の発表を後押ししています。その活動の一部として、サイトのコーディネーターは、コラボレーションを促進し、現場で小麦さび病を識別し、それと戦っている人々をより良く訓練するために、ビデオや動画のようなマルチメディア機能も導入しています。